第8話 山形の箸箱 藤村邦(絵・芦野信司)

    悠吾が銀色のアタッシュケースに書類を入れ、ロッカーからトレンチコートを出して帰り支度を始めると、同期の中年OLが「今夜はお父さんが食事係かしら」とからかうような口調で問いかけてきた。フロア出口に向かって歩いていると「売れてるシングルファザーは、定時退社でいいよな」と転職組同期が悠吾の肩をポンと叩いて皮肉めいた言葉をかける。悠吾の部長昇格は本社のダイバーシティ戦略にのっただけで、…

続きを読む

第7話 カオス かがわとわ(絵・芦野信司)

「この前は、驚きの連続でした。実はそれがきっかけというか、何というか、お願いしたい事が出来てしまいまして。会っていただけますか」  入力した界の手が止まり、小さく唸って宙を睨んだ。 「先日は、貴重で刺激的な時間となりました。実はその件で、折り入って相談したいことが」  打ち直して「堅苦しすぎるかな」とひとりごち、元の文に戻してえいやと送信した。未織さんとのLINE開通一通目なの…

続きを読む

第6話 時雨 芦野信司(絵も)

    だりあは2階にある自分の部屋の窓から道を挟んで斜向かいにある界の家を見ていた。夜の7時なのに玄関に明かり点かない日がここ数日続いている。ちょっと前までは7時になれば必ず灯っていた。その家がまっ暗なままなのだ。  界が夕方のレストランのバイトが決まったと言っていた。界のお父さんの帰りもこのごろ不規則のようなので、夕食の当番制が崩れてしまったのだろうなと、だりあは思った。  それに…

続きを読む