だりあは2階にある自分の部屋の窓から道を挟んで斜向かいにある界の家を見ていた。夜の7時なのに玄関に明かり点かない日がここ数日続いている。ちょっと前までは7時になれば必ず灯っていた。その家がまっ暗なままなのだ。
界が夕方のレストランのバイトが決まったと言っていた。界のお父さんの帰りもこのごろ不規則のようなので、夕食の当番制が崩れてしまったのだろうなと、だりあは思った。
それにしても、クリスマスを控えて他の家々でイルミネーションの飾り付けが賑やかなのに比べると界の家の暗さが目立った。「オヤジと喧嘩中」というラインを最後に、界のLINEは無言のまま。機嫌が悪いとこっちにまで八つ当たりをする。会って慰めてあげようと思っているのに界は勝手だ。だりあが「無視するな!」の怒りのスタンプを連打して、やっと一言、二言の返事がある。
だりあは階下のダイニングの椅子に座って、夕飯の支度をしている母に尋ねてみた。
「お母さん、界のお母さんとも仲良かったでしょ。もしもの話だけど、界のお父さんが再婚するなんてことあると思う?」
ガスレンジにかけた鍋を見ていた母が振り返った。
「そうねえ。可能性はあるでしょうけど、あの歳で今更結婚なんてするかしらね。それに、界くんのお父さんてシングルファーザーでしっかり子育てをしているということで新聞記事になったりして、ちょっとした話題の人になのよ。だりあもダイバーシティってことばを知ってるでしょ。人種や性差や年齢いろんな違いを越えた多様性を認めましょうということで、雇用機会や昇進の面で会社は社会的責任を果たすことを求められているし、それを推進すると会社の社会的地位が上がるという時代になっているのよ。界くんのお父さんは、勤めている会社のダイバーシティの代表選手的扱いのようね。新聞に出ていたもの。その人が急に再婚してしまうと、せっかく盛り上げてきた話題性が消えてしまうでしょ。再婚しちゃ悪いというわけではないけれど、多分会社からは歓迎されないでしょうね。変な話よねえ」
母はそこでことばを切ってから、眉間にしわを作ってちょっと首をひねった。そして、だりあの顔を見た。
「そんな話、あるの?」
だりあは口角を上げた笑顔を母に向けた。
「ない、ない」
母は訝しげにだりあを見返した。
「ほんとう?」
だりあは目を瞬かせながら慌ててことばをつないだ。
「ちょっと想像しただけ。おとなの世界って面倒くさい。私には理解できない」
翌日の金曜日、学校から帰宅後だりあは図書館に行った。未織は先週と同様に1階のヘルプデスクでひとりの老爺に対応中だった。老爺は耳が遠いらしく未織はデスクに身を乗り出して喋っていた。あの人って親切で仕事熱心な人なんだなと、だりあの胸に未織への好意が生まれた。素敵だなと思った。
だりあは未織の注意を引かぬようフロアーを横切り、エレベーターのボタンを押した。前に来たとき未織に教えて貰った4階で下りた。確か社会科学の棚だった。この間は界と未織が何を話しているかが気になって本を探す余裕などなかった。今日こそはゆっくり調べようと思ったのだった。
箸箱に関する本は見あたらなかった。しかし箸の歴史が書いてある本はいくつか見つけることができた。
窓側に並んだ机とパイプ椅子の閲覧コーナーにだりあは腰を据えた。書棚から持ってきた2冊の本を横に置き、ぱらぱらと頁をめくった。
一冊目の本は箸の歴史に関するものだ。それによると箸に似たものは古墳時代から祭祀に用いられていたようだ。食事の道具としては小野妹子らの遣随使によってもたらされたようで、聖徳太子が日本で初めて箸食制度を朝廷の儀式に使った。平安時代には箸の使用が庶民に広がり、鎌倉時代にはそれまであった匙の使用が姿を消して箸だけになったという。箸箱は無いのだが、箸に関連して少しだけ記載があるのは「箸袋」で、平安時代の宮中で端布に大事なものを包んだことに始まるようだ。箸箱に類似するものとしては「箸鞘」というものもあるようだが、運慶が生きた平安末期からから鎌倉時代にかけて箸箱があったという資料を探すことはできなかった。もし未織の箸箱が実物だとしたら、運慶が作ったものでなくとも箸箱の形としてはごく初期のものであり文化財的価値のあるもと推測された。
もう1冊は運慶に関するもの。運慶には長男の湛慶をはじめとして六男の運助まで男ばかり6人の子がいるという。未織はそのうちの誰の末裔にあたるのだろうか。だりあは、八百年前の運慶から今につながる箸箱伝承の物語をぼんやり想像した。その末裔である未織は未婚のようであるし、あの年齢ではこれから子供を持つこともできない。それではいったい誰に伝えるのだろう。先ほど図書館司書としてかいがいしく老爺の世話をしていた姿を思い浮かべると、だりあは急に未織がいじらしく思えてきた。
界のお父さんとの関係も知らぬふりをしていよう。この先どうなるかはわからない。箸箱には興味があるけど、むりやり未織に聞くのはやめよう。分かるときは分かるだろう。だりあはそう思った。
机の上にスマホを置いた。界とのLINEを開いてみる。だりあの怒りのスタンプがずらり並んでいる。
「界」とだりあはつぶやいた。界を追い込んでしまったかなと思った。
「怒っているのかな? それだったらごめんなさい。バイト、忙しそうだから連絡しないね。でも、来週の金曜日はクリスマスイブだから会おうよ」
送信ボタンを押す。
だりあが2冊の本を閉じてぼんやりしていると着信音が鳴った。界かな? と思ってスマホを見てみると高校の友人の知子からだった。
「明日の午後はヒマ? 駅前モールのシネマコンプレックスに一緒に行かない? 急に封切り映画のチケットが1枚手に入ったんで。てへっ」
「何がてへっよ。彼氏と映画に行くって学校で話していたばかりじゃないか。さては何かあったな。しょうがない。慰めてやるか」
だりあはそうつぶやいてから、ふふと鼻を鳴らした。
「いいよ。映画の後、一緒にお茶しよう」
だりあは返信した。
4階の窓から眺める街並みは光が灯り始め、駅前モールのクリスマスイルミネーションが華やかに点滅していた。今日も明日も夕方は雨になるという天気予報だったが、今のところはまだ雨の気配はなかった。
その夜遅く、界から返信があった。
「楽しいイブにしようね」とあった。
翌日、映画の後の喫茶店でだりあは知子と向き合っていた。そして知子の彼について話題を振り向けてみた。知子の彼というのは同じ高校の同学年生。だから、だりあも知っていた。背が高い方でサッカー部に所属しているので、グラウンドでボールを蹴っている姿をよく見かけた。顔ににきびの痕があり髪が立っている。少し不良っぽい不敵な笑いをすることがあり、先生たちからは、生意気で反抗的な奴と見られているようだった。それに対して知子の方は、一見してお嬢様育ちだ。無邪気な明るさがあり、黒く長い睫毛と赤い唇は化粧をしているのではないかと疑われるほど目を引く。それは両方とも生来のものであった。知子は、だりあに比べて自分の唇が厚ぼったいと嫌がっているが、それは知子のチャームポイントであり、だりあから見ても指で触れてみたくなるような蠱惑的な美しさがあった。
「私たちこの頃マンネリなのよね。昨日だって急にクラブの先輩に呼び出されたからって今日のデートをキャンセルしてきたし。ま、ごめんねって一生懸命に謝っているから仕方がないと思っているけど、これってパパが業界の付き合いだからってゴルフに行く姿と変わらないなあと思って、何か知らないけどがっかりしちゃう。まだ何も始まっていないのに、なれてしまっている。私たち、駄目なのかもしれないって思うときがある」
「安心しきっているんじゃない。知子は俺のものだって」
「そう言われたら、少し嬉しいかもって思うけどね」
「彼、言う?」
「言わない。思っているかもしれないけど」
「何、それ最悪!」
だりあはしかめっ面になった。
知子は笑顔で、だりあの反感を優しく制した。
「彼って内気ではにかみやだから、口に出すのが苦手なの。だからすぐ誤解される。その代わり…… 」
「その代わり、何よ」
だりあの声が尖っている。
「愛してるって言う」
知子が答えた。二人は顔を見合わせお腹を抱えて笑った。
「なーんだ。ごちそうさま。じゃあ、慰める必要ないわけね」
だりあがそう言うと、知子が聞き返した。
「だりあはどうなのよ。彼とはうまく行っている?」
だりあは、界が親子喧嘩をしていてそのとばっちりを受けていることを知子に話したらどうなるだろうとふっと空想してみた。きっと、知子はいろんなことを知りたがるに違いない。そうしたら、未織のことも説明しなければならない。運慶の箸箱も。そんなことを考えると自分にはとうてい説明できるものではないと思った。
「まあまあね。イブに会うことになっている」
「それじゃ、プレゼント交換ね。何にするの?」
「まだ決めていない。本好きなのでブックカバーかなあなんて思っていたけど」
「このモールの3階の書店で売っていたかな。あとで見てみようか」
知子と一緒だったらゆっくり選ぶことができないだろう。だりあは、微笑みながら首をふった。
「ありがとう。でも、もう少し考えてみようと思っている」
それから二人は小一時間ほどおしゃべりに費やしてから分かれた。まだ6時を過ぎたばかりだったので、だりあは知子が薦めた書店に行ってみた。そこには文具コーナーがあり、ブックカバーの種類も多かった。
だりあが選んだのは、少し緑ががかった青色の生地のブックカバー。本好きの界はいつも読みかけの本を手に持っていたり小脇に抱えていたりする。だりあはそんな界の姿が知的な感じで好きだ。界の持っている本が自分の選んだ色であれば嬉しい。ラッピングをして貰っている間、退屈なので店内を見回すと遠くの書棚で立ち読みしている未織の姿が目に入った。
ベージュのトートバッグを左肩に下げてグレーのコートを着ている。コートの裾から形のよい脹ら脛がのぞき黒のハイヒールへと続く。落ち着きのある上品な未織の立ち姿に、だりあはちょっと見とれてしまった。帰宅途中なのだろうか。いつも本に囲まれている司書なのに本屋に来てまで本に囲まれている。根っからの本好きなのだろう。そうだりあは思った。
ラッピングをしたブックカバーを紙袋に入れてもらい会計を済ませ、だりあは帰ろうとしたが、直ぐ近くが理工関係の書棚だったのでちょっと見てみたい気分になった。目が吸い寄せられるように本の背表紙を追っていく。だりあの目が止まったのは、『道具としての数学』という本だった。だりあがいつも疑問に思う道具と人との関係にも通じることが書いてありそうだった。人が数を数えるという行為から説き起こしてコンピュータまで、数学を操ることがどういうことかが書いてある。ページを繰っていくと「ことばとしての数学」という見出しがあった。数学は自然科学というけれど人間同士が相互に認識し合うということではことばと同じだという主張のようだ。だりあも時々そんな感覚を受けることがある。学校で出される数学の問題の中には、これが数学か? 国語の問題じゃないかと思う問題がある。界はよく「だりあは理系だから」と言うが、文系と理系でそんなに違いがあるようには思えない。
たとえばセックスだ。だりあには、避妊はしていてもこれって生殖行為だということが頭から離れない。それは界にとっても同じだと思う。性器に快感があるのは生命が維持され遺伝子をつないでいくための仕掛けだ。恋愛感情もその一部だろう。だりあは、恋人という関係の中で界に対する感情が自分の中からわき出てくるのがおもしろい。でも、界に対する思いはそれだけではない。小さかった頃から界を見ていた。お母さんが死んだときもその後もずっと界を見ていた。だりあにとっては、記憶にあるすべての界が今の界につながっている。だりあは界とセックスすることに些細な違和感を感じる。界は自分に対して決して変なことはしないという安心感がある反面、セックスにはぎこちなさを感じる。だりあは自分自身セックスが好きじゃないのではないかと思うことがある。
『道具としての数学』を書棚に戻すと、だりあは今度図書館で借りてみようと思った。もう一度未織の方に目をやると、未織は同じところに立っていた。本を探すにしては動きが少ない。もしかしたら未織は界のお父さんと待ち合わせをしているのじゃないかとだりあは思った。だりあの胸が少し高鳴った。覗き見をしているような後ろめたさと押さえられない好奇心が入り乱れた。
だりあは近くの書棚の裏に隠れた。ブックカバーの紙袋を胸に押し当てて書棚の端から目だけを出して観察した。
すると程なくして未織に近づく男の影が見えた。中年の男が来るものと思っていたのに、来たのは見覚えのある大きな傘を抱えた若者だった。それは界だった。
だりあは書棚に顔を隠した。
動悸が痛いほど鳴った。
どうして界がいるの。バイトじゃなかったのと、だりあは思う。だりあは、もう一度書棚の端から目だけを出した。すると、二人の姿はそこには無かった。
書棚の列をもう一つ入り口寄りに進んで見てみると、二人は並んで書店を出るところだった。だりあは物陰に隠れながら二人の後を追いかけた。 二人の間は少し離れていて未織の方が心持ち前を歩いていて界の方を時々振り返っている。モール内の通路は大勢の人が行き来しているが、見通しはきいた。見通しがきくということは、もし向こうが振り返ればこちらも容易に見えるということなで、だりあは距離を取りながら通行人の背後に回って身を隠した。界が歩きながら未織に話しかけているように見える。少し微笑みながら。界の顔は見えなかったが、だりあにはそれがよく分かった。界がだりあに向ける微笑みと同じだろうと思った。
二人はエスカレーターで二階へ下って行き、さらに一階へ下ろうとしていた。だりあは二人が一階へのエスカレーターの中程まで下ったのを見て、二階から一階に下りるエスカレーターに乗った。少しずつエスカレーターの階段を下りて行きあまり二人から離れないようにした。
二人が一階の通路を駅の方に進んで行くのを確認して、だりあはエスカレーターをどんどん下りていった。駅の雑踏に紛れ込まれたら見失ってしまう可能性が大きかった。
駅のコンコースは夕方の混雑の直中にあった。だりあは足取りを速めて見覚えのある長身の界の頭部を見つけようとした。雑踏をかき分けた先に、界の頭が見えた。だりあはその頭から目を離さないようにして人波を避けながら進んで行った。
駅舎の外は雨だった。外へ出て行く人の傘が次々に開き街の闇に紛れていった。前の方で界の大きな傘が開くのが見えた。ところがだりあは傘を持ってきていなかった。昨日の予報が外れていたので、降っても小雨程度だろう高をくくってしまったのだ。あの傘に飛び込んでしまいたいと思ったが、それでは二人の後を付けてきたことがばれてしまう。気が付くと、界の傘の中には未織が入っていた。だりあは苦い唾が口中に広がるのを感じた。
二人は線路の高架下沿いの舗道を歩いていた。傘の内で未織が界の腕に自分の腕を絡ませて寄り添うように歩いている。コートの下で前後する未織の脹ら脛が車のライトに照らされてなまめかしく光っていた。だりあは二人から20メートルほど離れて後を追っていた。だりあは自分が獣じみているように思えた。今にも後ろから二人に襲いかかろうとする別の自分がいるのを感じた。
二人が道を横断するのが見えた。ビルの間に消えたので、だりあは急いで追った。二人が消えたところには植え込みのある小さなホテルが建っていた。Uホテルと看板がある。
だりあはその前の道になす術もなく佇んだ。髪が雨に濡れとおり、前髪から流れる滴が顔を覆った。今まで当たり前だった世界が一気に崩壊してしまった。さっきの時点だったら追いつけた現実が、今は追いつきようもなくなってしまった。
だりあは雨を避けるためホテルと反対側のビルの側に立った。そして少し高いところにあるホテルの入り口を見つめた。こんなところにいる自分が惨めだった。だりあは、スマホを取り出し、界にLINEを送った。
「いまどこいまどこいまどこいまどこいまどこいまどこ。早く返事して。いまどこいまどこいまどこ。早く早く」
しかし界からの返事はなかった。だりあはそれでもそこから逃げ出したい衝動を10分ほど耐えていた。
「いまどこなの。私はいまUホテルの前…… 」とそこまで打って、送信ボタンを押すのをためらった。それは界への訣別の一文となるからだ。手で顔を隠すようにしながらホテルの入り口を見つめた。だりあはかぶりを激しく振った。寒気がして吐きそうになった。
「こんなのいやだ」と叫ぶ。
だりあは送信ボタンを押した。そして、駅の方へと駆け出した。
翌日の日曜日、だりあはむりやり母に起こされ朝食をとったが、また部屋に戻るとベッドに倒れ込んだ。何もする気になれない。スマホの着信音が何度か鳴ったが見たくなかったので電源を切り、勉強机の引き出しの一番奥に隠してしまった。だりあはぼんやりと昨夜のことを思い出していた。
だりあはずぶぬれで帰宅したので、すぐさま風呂に入ったのだった。食事は知子と軽く食べてきたのでいらないと嘘をついた。母に泣きはらした顔を見られたくなかったので、風呂から裸のままで自分の部屋に逃げ込んだ。母が心配して部屋に見に来たときは寝たふりをした。でも本当は寝付けずに布団の中で転々としていたのだ。胸が張り裂ける思いというのが本当にあるのだと知った。心臓が痛いのだ。だりあは一睡もしていないつもりだった。しかし、母から起こされたところをみるといつしか寝入ってしまったんだろう。
だりあはベッドの中で胸を抱えるようにして寝ていたが、昨夜よりは自分がましな精神状態になっているのを感じた。ベッドから見える窓の外には冬の曇った空が見えた。それがいつもどおりだということが、だりあの気持ちを明るくさせた。起きあがって、部屋の壁に掛けた鏡に向かった。自分に笑ってみせる。首を傾げてみせる。両手で髪を後頭部に送り束髪になった自分の横顔を見てみる。鏡の中の自分はいつもどおりの自分だ。だりあはそれが嬉しかった。
昨日のブックカバーを入れた紙袋は雨によれて机の上に放り出されている。界へのプレゼントが不要になった。だりあの口にまた苦いものがよみがえってきた。もう界と顔を合わすこともないだろう。道で会っても顔を見なければいいのだ。だりあはそんな自分の姿を容易に想像することができた。
心は決まった。もう界や界の家族のことで悩む必要はない。だりあは自分に言い聞かせた。はればれとした気分になった。それでも午前中いっぱいはスマホの画面を見る気にはなれなかった。
午後になって、父と母は車で出かけた。買い物に行って来るという。父母の買い物は半分はデートみたいなもので3、4時間はかかる。だりあはスマホを机の引き出しから取り出し、下階のリビングのソファーに寝ころびながら電源を入れた。
今朝になって界から2件のLINEの着信があった。知子からも1件あった。界からは「会って話をしたい」とあった。2度目は「誤解しているようなので会いたい」とあった。だりあは、ぷっと吹き出してひとりで大笑いをした。見え透いたことを言う。陳腐な言い訳など聞けるものか。だりあは自分にそう言い聞かせた。知子からは、ブックカバーが置いてあるいいお店がもう一軒あったという知らせだった。住所と店の画像が貼り付けてあった。
だりあは知子に対して昨日の礼とブックカバーのお店の礼を打ち込んで返信した。界のメールは無視した。
しばらくして玄関に来客を告げるベルが鳴ったので、だりあは「はい」と言いながらドアを開けた。界が表に立っていた。
「話をしたい。入ってもいいかな」
だりあは、両親が外出したのを見計らって界がたずねてきたのだと思った。
「泥棒猫みたいな真似して、恥ずかしくないわね」
「だから誤解だよ」
界がそう言いながら一歩踏み出してきた。
だりあは、困り果てた情けない男の頬に平手打ちを食らわせた。
この記事へのコメント
芦野信司
いつもコメントをしていただきありがとうございます。
未織が今後どんな現れ方をするのか、私も興味津々です。界と悠吾がどんな対立をするのかも含め、ストーリーは今後盛り上がっていくものと思います。できるだけドラマチックな展開にしたいですね。どこまでぶっ飛べるかですね。
かがわとわ
毎回、コメントありがとうございます。
カラーピーマン様の感想が、そのまま私の感想に近くて嬉しくなりました。いったい界はどういうわけで未織とそこに?
とか、
未織の魔性っぷりがすごいな。
とかで 、
いったいこの先は、どうなるんだろうね??? なのです。
次に書くのは、私なのに。
だからリレーは楽しいのですよ。
芦野さんの書くだりあは、なかなかの女の子でいいでしょ?
(*'▽')
カラーピーマン
理数系が壊滅的だったカラーピーマンは、だりあの割り切りの良さが羨ましいです。理系の人は先がクリアに見えるのでしょうね。
それにしても、界、限りなく怪しい(-_-;) でも、だりあの家に来たということはそれなりの理由がるのでしょうか?
いやいや、それより問題は未織さんですよ。悠吾と界が父子だと知りながら二人を手玉に取るような振る舞い。意図的じゃないところが逆に罪深く感じてしまいます。自覚の無い魔性の女に、だりあはこれからどう挑むのか? それとも手を引くのか? ああ、気になります。
ありがとうございました。次回も楽しみにしています。